前月の「大和路仏像巡礼」に引き続き、仏像巡礼を軸にした紀行文的著作の紹介。ただし、コンセプトは同じでも、好対照と言っていいほど、地方の仏像だけを取り扱っています。いわゆる仏像史の王道に接触する像は横須賀浄楽寺の阿弥陀三尊くらいでしょう。それ以外の像については、正直、この本を読むまで知らなかった像が大半でした。
東北から九州までの46カ寺を取り上げていますが、仏像が一極集中している奈良と京都がたった3つしかありません。それも舞鶴の金剛院、南山城の神童寺、吉野の如意輪寺と、完全に「みやこ仏」を無視しているとしか思えないラインナップです。ここまで徹底したスタンスに好印象を抱き、購入してしまいました。
この著者は略歴を見るかぎり、仏教美術専攻とのこと。確かにそこかしこに専門的な内容を盛り込みながら、それでいて内容が仏像の細かい知識に偏っていません。また、それ以上に非常に書き方が丁寧で落ち着いています。読んでいて実際お寺を訪れた時の、心休まるあの感じが思い起こされる様な、そんな筆致にも魅せられました。
地方仏を自分は軽視しているつもりはなかったのですが、これを読んで、いかに地方の仏像を知らなかったか、地方にも素晴らしい仏像が多く残っているかを思い知らされました。そのうちの一つ、小浜の妙楽寺を、この本の写真に魅せられこの5月に訪れてきたばかりです。
どのお寺も市街中心部から大きく外れているところがほとんど。実際に訪れるようなことになれば、巻末の各寺院ガイドが役に立ちそうです。
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