古い本ばかりというのも何なので、昨年刊行された「運慶にであう」を今月はご紹介。
まだ記憶に新しい、「新発見の運慶作の仏像、国外流出の恐れ」として大きな話題を呼び、オークションにてウン億円で落札された大日如来像(現・真如苑蔵)を運慶作として世に紹介した研究者の手による著作です。
運慶の作った仏像の、現在知られているすべての像についてカラー写真を交えて説明しています。刊行が2008年9月と比較的最近で(件の大日如来の落札騒動の後)、興福寺旧西金堂仏頭や、称名寺の大威徳明王像、件の大日如来も取り扱っているなど、最新の研究結果に基づいた内容が造像順に従って網羅されています。像の解説だけでなく、運慶と彼を取り巻く時代や人物とのかかわりをコラム的に挿しこんでおり、非常にわかりやすい。さすがに現在第一線での研究を続けているだけあって、全体の内容はツボをしっかり押さえている感じを受けます。
ただ、文中の説明は、著者の持論や像から受けた印象を前面に押し出した内容が多く(正直自分の好みではないのですが)、また、著者自身も認めているとはいえ、現時点では完全に運慶作と確定していない像まで紹介しているのはちょっと蛇足のような感じも受けました。
とはいえ、仏像研究のうえでは避けては通れない仏師運慶の事績をたどるには穏当な一冊。仏像に興味を持ち始めた高校〜大学生くらいの人が読まれると、とっつきやすいのではないかと思いました。
なお、自分が運慶に興味を持ったのは西村公朝氏の「運慶 仏像彫刻の革命」でした。あわせてお勧めです。
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