「はじめてのふたり旅、春の東京」
TEXT:名誉顧問
ふたりの菩薩が東京見物にやってきました。お供は聖観音菩薩。この三体は、東大寺の大仏さん(初代)よりずっと前に造られた、古〜い像。なのに、今見ても新鮮。 白鳳(飛鳥後期)時代の作か、平城遷都後の作かで論争があるものの、古い古い像であることに変わりありません。
今回の展示の特徴はふたつです。
1.ほどよい数の展示
これまで、平成館の特別展示は、ものが多すぎてヘトヘトになりませんでしたか? そこいくと「薬師寺展」は、じっくり見た後でもデートや飲みに行ける余力が残るというありがたさ。体力に自身のない人も安心です。
2.前から後から姉妹を総ナメ!
お堂での拝観は、正面からだけでした。今回はあえて光背をはずし、後にまわってみることも可能。背中の美しさは必見! マニア心をくすぐる演出ですね。
では会場へ入りましょう!
●いきなり登場! 観音王子
会場へ入ると、立ちはだかる朱色の柱と白い壁。これは、薬師寺を実際に訪れて、伽藍を訪ね歩く気分を味わってもらうためらしいです。
最初にあるのは薬師寺鎮守の八幡神像。日本の八幡神と仏教は関係が深い。神像からは、ただならぬ気を感じます。休ヶ岡(やすみがおか)八幡という名前にも、個人的な親近感を感じます。
次のコーナーは、いきなり東院堂! しょっぱなから、メインディッシュいっちゃっていいのか? この、出し惜しみしない態度がいいです。
しかも、間近でじっくり対面でき、後姿もばっちり。白鳳期といわれる古様の姿を存分に味わってください。
東院堂の聖観音像。いつみても元気そう。スッと直立している姿勢が特徴ですが、よくみるとわずかに腰を傾けているのがわかりました。肩に垂れる長髪もイイ!
客を迎える王子。台座の華麗な彫刻は、ヨーロピアンテイストさえ感じるほど |
左右対称の衣のハネ具合が、飛鳥の古い様式を伝えている |
●妖艶な美人姉妹・日光&月光菩薩
スロープをあがると、もう日光・月光(がっこう)両菩薩がお迎え。ここも出し惜しみしない。しかも、わざわざスロープを上がって、高い目線で見せ、下に降りて近くで見るという、二段階構成です。
大きいのに軽やかさを感じさせる名像に、しばし見入りました。
観客のカーテンコールに応える美人姉妹
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報道陣のカメラにポーズをとる日光菩薩
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腰をキュッとひねった躍動感のある表現は、インドのグプタ様式に通じているそうです。
後や横から見ると、いろんな発見があります。背中の肉付きのセクシーさ。瓔珞とはちがう、チェーンのような飾り。
お寺に戻ったら、もう見られませんよ。
この背中! なんてセクシーなの!
金属製とは思えない、柔肌の質感。 |
腕にかかる天衣(てんね)の先は、
台座にまで垂れていたんですね
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繊細な指先の表現にも注目
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●もうひとりの主役・吉祥天
反対側へまわり、薬師寺の歴史を伝える展示のあとは、もう一人の主役、吉祥天画像がお目見え。奈良時代の麻布着色。実物を見る前に、「ここに注目」といったパネルがあり気分を高めます。
実物は、暗〜いコーナーにぼうっと光があたっていて、そこにある。けっこう小さいです。
皆、顔をすりつけるように近づいて、なめまわすように見ています。ああ〜視線でいたぶられる吉祥天。美しさゆえの痛い視線。
たぶん会期中は行列でしょうね。
最後に、「薬師寺展」の図録。
本尊の薬師如来を含め、あらゆる角度で撮った写真があり秀逸です。薄いので飲み会に行っても負担にならない(笑)。
三蔵法師から始まる法相宗や、唯識思想の話、薬師寺像の制作年代論争の話もたっぷり。仏教マニアや古代史マニアの方もしっかり満足。
そんなわけで、非常に楽しめる「薬師寺展」。
お寺のお堂で拝む厳かな感じとはやはりちがいます。ま、とやかく言うより、これはこれで、楽しんでしまったほうがよいのではないでしょうか。
2008/4/1
宮澤やすみ(日仏会名誉顧問)
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